(この初々しさを気に入る男性は案外と多いですから)
 未熟さが武器になるのは女の特権かもしれない。
(が、陛下には、残念ながら通じなそうですね)
 斜め前の席にいる焔幽の横顔がちらりと視界に入る。瞳が「退屈だ」と言いたげである。

 焔幽とは違い、香蘭はわりと未熟な芸事を見るのは好きだった。どこをどう改善すればよくなるのか、そういうところを研究するのが好きだからだ。
 途中、舞の振りをド忘れしてしまったらしい子に客席からこっそりと教えてあげたりしたことは焔幽には秘密にしておこう。
 残り半分くらいのところまで来ると、さすがにレベルがあがり、全員の目が舞台に釘づけになっている。終わると割れんばかりの拍手が送られる。
 礼をして舞台を去っていくのは瑪瑙妃、柴美芳だ。彼女は二胡(にこ)を披露した。確かな腕前と彼女独特の音の捉え方により素晴らしい演奏になっていた。
 焔幽もきちんと拍手を送っている。