香蘭はまじまじと彼を見返す。
(なるほど。この方はこの勘のよさで陛下の側近になったのですね)
 夏飛がなぜ焔幽のお気に入りなのか、その理由がわかった。

 足のある幽鬼とは言いえて妙だ。今の自分は死んだ蘭朱の魂が香蘭の身体を得て歩いているようなものなのだから。
 香蘭の真実に夏飛はかぎりなく近づいている。
「おそらく陛下も同じことを感じているはずですよ。僕と違って、あの方はあなたのそこを〝気味が悪い〟ではなく〝おもしろい〟と思っているんでしょうけど」
 自身を暴かれるかもしれないという感覚に香蘭の背筋はヒヤリとした、と同時に、ちょっとした高揚感も覚えていた。蘭朱のときとは異なり、香蘭の人生はあまりにも穏やかだからちょっとした刺激を本能で求めてしまったのかもしれない。
 結局、夏飛と打ち解けることはできなかった。嫌われているのではなく、気味悪がられているとわかっただけ。

 まだ太陽が南の空で悠々としている時間ではあるが、月見の宴が始まった。
 美食事と酒を楽しみながら、舞台で披露される妃嬪たちの芸事を眺める。こういう場の常で、披露の順番は期待値の低いほうからだ。皇后にもっとも近いとされる翡翠妃のすぐあとに美貌だけで選ばれたような田舎貴族の娘の番では、いじめにしかならないからだ。
 順番が早いほうの女たちの芸はたどたどしく、拙い。が、それもまた一興ではある。