本来は宦官でないとできない仕事だ。男性が宦官になるというのは、そうとうの覚悟が必要のはず。その意味で香蘭に思うところがあっても不思議はない。
「いえ、ありがたく思っていますよ。妃嬪選びは僕向きの任務じゃないですしね」
「では、私がお嫌い?」
 ズバリ聞いてみたところ、夏飛はパチパチと目を瞬く。ここまでの直球を投げかけられるとは予想外だったのだろう。
 しばし考え、口を開いた。
「嫌い、ではないですよ。優秀だし、あなたは性格も悪くない。けど、なんというか……気味が悪い感じがするんですよ」
「それは、私の頭がよすぎるとか機転がききすぎるとか、そういった意味で?」
 夏飛は苦笑して眉根を寄せる。
「いつもながら清々しいほどのナルシストぶりですね」
「はい。私は自分のことが大好きですが、それで誰かに迷惑をかけているわけでもないですし……責められるいわれはありませんよね?」
「まぁ、たしかに」

 夏飛はじぃっと香蘭の顔を見る。仮面をはがしてやるとでも言いたげな目だ。
「――足のある幽鬼」
 香蘭の心臓が跳ねた。もちろん夏飛にときめいたという意味ではない。
「うん、まさにそんな感じだ」
 自分の胸のうちを適切な言葉で表現できた。夏飛の顔にはそんな納得感があった。
「人間なのか幽鬼なのか、正体がわからぬほうがかえって恐ろしいでしょう。あなたを前にするとそんな感覚を覚えるんです」