そう、この胡香蘭こそが千年寵姫と謳われた貴蘭珠の新しい生なのだ。
(前世の記憶がそっくりそのまま残ってしまったのは、どうしてなのかしら? 水晶玉の力、はたまた失態?)
 そこはよくわからないが、香蘭は生まれ変わった自分の現状に大満足している。
(平凡な家柄、平凡な職場、なにより……)
 大量の洗いものが放り込まれた籠をひょいと持ちあげた香蘭に、詩清は感嘆ともあきれともつかないため息をこぼす。
「あいかわらず、とんでもない怪力ねぇ。それはふたりで抱えるものよ」
「そうなんですね。でもひとりで問題ありませんのでご心配なく」
 軽々と籠を運んで水場に向かう香蘭を追いかけながら、詩清は「モグラ、これ以上ないほどあなたにぴったりのあだ名ね」と苦笑した。
(美女じゃないって最高ですね。いちいち拝まれたり、感動されたり、妬まれたり、毒をぶっかけられそうになったりしないんですもの)
 洗い場に着いた香蘭は「どっこいしょ」と籠を置いてから、よく日に焼けて筋肉と脂肪がいい感じについた自身の腕を愛おしげに撫でた。