(この私とキャラをかぶせようとするなんて、千年早いというものですわ)
 焔幽は呆気に取られて目を見開き、それから首の後ろをかいた。
「お前の容姿は別に悪くはないが、万人が見惚れるようなもんでもないぞ」
「ふふ、素直じゃないですね。容姿はなかなかよいし、俺以外の人間には見惚れさせるなと。そうおっしゃりたいわけですね」
「……意訳が過ぎるだろう」
「ツンデレな陛下の、無自覚の声を代弁したまでですよ」
 焔幽は存外にかわいらしく、からかって遊ぶのはなかなか楽しい。雪寧の宮も居心地がよかったが、焔幽の朱雀宮も悪くない職場だ。
(まぁ、私がどこにいても有能だという証拠ですね)

 焔幽と他愛ないおしゃべりをしながら、月見の宴の会場となる中庭に向かう。
「これは素晴らしいですね!」
 もう完璧に準備が整っていた。芸事を披露する舞台は花で飾られ、食事用のテーブルには上等な布がかかっており、所狭しとごちそうが並ぶ。後宮である千華宮の人間も表の行政区の人間も続々と集まってきた。

 香蘭はふと視線を感じた。といっても、隣にいるのは皇帝である焔幽なので視線を集めるのは常のことなのだが……その視線は独特の重みを持っていたのだ。とろりとした毒を含むような。
(誰?)