四 月と太陽


 秋の空はどこまでも高く、優しい色をしている。すっかりなじんだ宦官帽を頭にのせた香蘭は鼻をヒクヒクとさせた。
「なにしてるんだ?」
 隣を歩く焔幽に問われ、答える。
「風の匂いがすっかり秋になったなぁと」
「発言は風流だが……そうしていると、ますますモグラにそっくりだぞ」
「お褒めにあずかり、光栄です。知っていますか? モグラというのは謎の多い生物ですが、なかなかに優秀で――」
 モグラの美点を語り出した香蘭を遮り、焔幽は苦笑を漏らす。
「もういい。お前に嫌みは通じないことがよくわかった」

 言葉とは裏腹に焔幽の笑みは柔らかい。氷のように冷酷とか、仮面皇帝とか、内面については散々に言われている彼だが……実際はそんなこともない。むしろ、情にほだされやすい部類の人間だと香蘭は思った。現に日の大半を一緒に過ごす香蘭にすっかり情が移っている様子だ。夏飛がどれだけ無礼でも楽しそうにしているし、気を許した人間にはとことん甘いタイプなのだろう。
(愛情豊かな人なのに、どうしてかたくなに愛を拒むのでしょう?)