桃花はもう香蘭の存在に配慮することもなく、己の要望に忠実な叫びをあげた。
「夜間にこっそりと朱雀宮付近に忍んでみましょうか」
「馬鹿なことを考えないのよ、桃花。夜風に当たったらまた体調を崩すわ」
 注意すべきところはそこではないだろうと、その場の誰もが心で思った。が、柳花は本気で姉の身体だけが心配な様子だった。
「今日のぶんの薬は間違いなく飲んだの? 薬師のところへ行く日も忘れていてはダメよ」
 こんな調子で彼女はいつも病弱な姉を心配し、フォローしているのだろう。

 なかなかに楽しい茶会だった。
 瑠璃妃と玻璃妃はともに、女官たちから慕われていることがよくわかった。桃花はいつもおっとりとしていて、声を荒らげるところなどは一度も見たことがないと全員が口をそろえる。「あのおかしな趣味さえ隠してくだされば、皇后にだってなれるはずですのに!」と女官たちは衣の袖を悔しそうにかみ締めた。
 妹の柳花のほうも評判はすこぶるよい。女官たちはみな主を敬愛している様子で、なかでもひとり、まるで恋をしているかのような眼差しを柳花に向けている者がいた。
(よほど柳花さまを慕っているのでしょうね)
 意志の強そうな娘だ。
 一途といえば一途。けれど、どこか危うい感じもあり、彼女は香蘭の心に強い印象を残した。

 瑠璃宮から朱雀宮への帰り道。
(収穫があったようななかったような……)