女官が誰に仕えることになるかというのは、非常に重要だ。後宮で強い権力を持つ皇太后、皇后に仕えることができれば待遇はすこぶるよい。加えて、彼女たちは皇帝の寵愛どうこうでは揺らぐことのない強い立場を持っているので安定性も抜群だ。ただしもともとの家柄がよくなければ回ってくることのない職場で、香蘭や詩清には縁のない話だ。
 ついで人気なのは、もちろん皇帝の寵を得られそうな妃嬪たちの宮。うまくやれば自分も寵のおこぼれをもらえる可能性もゼロではない。千華宮にいる女は、下働きにいたるまでみな皇帝のもの。下級女官がその身体ひとつで妃嬪になりあがった例はいくらでもある。
 もっとも、美女だと主や仲間に妬まれて顔に傷をつけられたり、最悪の場合は冤罪で処刑されたり。そっちのパターンのほうがはるかに多いのも周知の事実だ。
 つまり、ハイリスクハイリターンなのが有力妃嬪の女官ということ。その逆でリスクもリターンも少ないのが、香蘭たち公主の女官だ。東大陸は男児至上主義。同じ皇帝の血を引く子でも皇子とは待遇に雲泥の差がある。いずれは嫁ぐ身なので、千華宮で権力を握ることもできない。しかしそれゆえに職場はのんびりとしており、諍いも少なかった。
(あの水晶玉の神力の素晴らしかったこと。まさに望んだとおりの穏やかで平和な日々!)
 散々小馬鹿にしていたあの水晶玉に蘭珠、いや香蘭は心からの感謝をささげた。