「あっ、蘭楊さま。この場で聞いた話は絶対に内密に。他言無用でお願いしますわね」
(なんともかわいらしい方です)
 桃花が無邪気で言動に嫌みがない。きっと誰からも愛されるだろう。
「はい、ご心配なさらないでください。私は記憶力が悪いのですぐに忘れてしまいます」
 香蘭は平然と嘘をつく。すると、すぐに女官からツッコミが入る。
「嘘ばっかりおっしゃって! 一度話した女官の名前は決して忘れない紳士だと評判ですわ」
「それは、この千華宮におられる皆さまが忘れられないほどに美しいからですよ」
 流し目に、きゃ~という歓声があがる。〝蘭楊〟は決して美男ではない。だが、美男っぽく振る舞うだけで女性の目にはそう映るのだ。
(美醜の判定は男性のほうが厳しいのかもしれないですねぇ。おもしろいものです)

「蘭楊さまは陛下といつもどのようなお話をされるのですか?」
 桃花は目を輝かせて、香蘭の顔をのぞく。
「朝から晩までご一緒なのですよね? 蘭楊さまは陛下直々のご指名で側近になられたとうかがいましたわ」
 桃花は陛下に興味津々。妃嬪候補としては当然の態度……のようにも思えるが、微妙なズレを香蘭は感じ取っていた。
(なるほど。これが〝変わったご趣味〟ですね)
 さきほどその情報を香蘭にもたらしてくれた女官に、ちらりと目を走らせる。