「そもそも、おふたりとも皇后や三貴人の地位にあまり執着がないようで。だから仲良くしていられるのかもしれませんね」
 香蘭も前世、とくに皇后になりたかったわけでもないが流れ流されその座に座った。歴代の皇后にはそういう女も多くいるだろう。なので別に意外でもなかったのだが、一応驚いた顔を作ってみせる。
「そうなのですか?」
「えぇ。とくに桃花さまはご自分の生にさほど関心がないのですわ」
「それはお身体が弱いせいで? そんなに深刻な病なのでしょうか」
 心配そうに眉をひそめた香蘭に彼女はケラケラと明るい笑い声をあげる。
「いえいえ! 余命短いとかそのようなことはまったく!」
 彼女は香蘭に顔を寄せ、耳打ちする。
「桃花さまはものすごく変わった趣味をお持ちなのです」
「変わったご趣味?」
「ご自身でお話ししてみたらよいかと」
 彼女は含みのある笑みを浮かべたかと思うと、桃花たちの東屋に向けて声をかけた。
「みなさま! 朱雀宮から陛下のご側近の蘭楊さまがいらしてくださいましたよ」
 女官のはからいで、香蘭も茶会に交ぜてもらえることになった。

「ふふふ。朱雀宮の衛士たちはみな見目麗しく、そして仲良しなのですわ! もう眺めているだけでついついよだれが……」
 桃花は顔の前で両手を合わせ、うっとりと夢見心地につぶやいた。かと思えば、バッと香蘭の顔を見て慌てた声を出す。