「誰がコソコソしていようが構いません」
 興味なさそうに彼女は吐き捨てる。香蘭の差し出した菓子にも一瞥をくれただけで、すぐに背を向けてしまう。
「えっと! 甘いものはお嫌いでしょうか?」
 美芳は足を止め、ゆるりと首だけを動かし香蘭を見る。
「ソレはわたしくの仕事ではありませんから」
 届けものの対応は女官の仕事。そう言いたいのだろう。

 香蘭は小柄な背中が宮のなかへ消えていくのをじっと眺めていた。
(やっぱり、興味深い方ですね)
 こうして実際に言葉を交わしてみても、美芳は謎の多い女性だった。人を見る目には自信のある香蘭にもつかみきれない。
 彼女はほかの候補と比べると家格は劣る。容姿も子どもっぽく、美女とはいえないだろう。にもかかわらず有力な候補のひとりにあげられている理由は、彼女が人並み外れた頭脳の持ち主だからだ。男児に生まれていたら、末は宰相だったと誰もが言う。
(野心があるのかないのか、読めない人です)
 美芳の指示どおり、菓子は女官に渡して瑪瑙宮をあとにした。

 続いて瑠璃宮、最後に玻璃宮を訪ねてみるつもりだったが、瑠璃宮で両方の目的を達成することができた。瑠璃妃のところに玻璃妃が遊びに来ていたからだ。
 宮の庭にある東屋(あずまや)で女官たちと一緒に和やかにお茶をしている。美しい女性たちが笑い合う様子というのは、よいものである。