意見を求めた以上は礼をするべき。その信念に基づき、香蘭は彼に頭をさげた。だが、秀由の明琳に対する評価はやや表面的で浅いと感じていた。
(愛想のない女は陛下にとってはむしろ理想的。だけど彼女は……)
 明琳は外見も内面もクールに見えるが、それは見えるだけ。実際は結構情の厚い……歯に衣着せずに言ってしまえば、色恋にドロドロした炎を燃やすタイプと香蘭は読んでいた。
(あの手の女は意外と面倒くさい! 間違いないはずですわ)
 そして面倒な女は焔幽のもっとも嫌うところだろう。

 秀由はふたつ目の饅頭に手を伸ばす。やせ細っているわりにはよく食べる。
「もっとかわいげのある女を……となれば、琥珀妃でしょうなぁ」
 秀由の表情筋がわかりやすく緩む。彼の好みは琥珀妃、甘月麗のようだ。
「甘家は財力があって後ろ盾としてはこれ以上なく強い。ご本人も可憐で愛らしいし、女嫌いの陛下でもきっとほだされるはず」
「なるほど、なるほど」
(長く生きているくせに、なんと浅慮な……)
 香蘭は秀由の雑すぎる人間観察力にすっかりあきれていた。女嫌いの男がもっとも苦手とするのが彼女のようなタイプではなかろうか。
 栗色のふんわりした髪、桃色の頬と唇。媚びを隠さない甘い声と蠱惑的な笑み。おそらく焔幽の好みとはかけ離れている。