「陽家は瑞でも一、二を争う名門の家。過去に皇太后を輩出したこともありますしね。ご本人の資質もなにひとつ問題ないでしょう」
 陽明琳はとびきりの美女だ。気品と知性にあふれ、彼女が皇后として焔幽の隣に立てば、このところ弱まってしまっている瑞国の威光も復活しそうに思える。
 容姿というのは案外侮れない。皇帝に気に入られる……などという小さな目的のためではない。国民に畏敬の念を抱かせるために重要だからだ。
(彼らは強く正しく、そして美しい支配者を求めている)
 圧倒的な存在になら、むしろ支配されたいとすら願う。それが民衆というもの。

「やはり、そうですよね」
 明琳のことは香蘭も一番の候補と考え、彼女を観察し、翡翠宮に勤める女官たちのうわさも十分に集めた。評判は悪くない。
『とても厳しい方ですが、贔屓はしないんです。全員に平等に厳しい。だから嫌いじゃないですよ』
『しっかりと自らを律していらっしゃいます。高貴なお方はやっぱり違うなぁと尊敬してます!』
 女官たちからはそんな声が聞こえてきた。ある意味では焔幽と似たタイプなので相性も悪くなさそうだ。

 秀由は桃饅頭を口に放り込みながらモゴモゴと言う。
「懸念点は愛想がなさすぎるところでしょうかねぇ。皇帝もひとりの男。かわいげがあるほうに情が移るのは仕方のないことですよ」
「なるほど。秀由さんのご意見、参考にさせていただきます」