序列の一はもちろん皇后。だが、三貴人にも上下関係がある。宝石にちなむ妃と同様で、貴人には色の名前を当てる。序列は高い順に蒼、緋、黄となる。

「血筋と本人の資質を単純に採点するのであれば、皇后は明琳さまで決まりでしょうね。ですが彼女は……」
 香蘭はそこで言葉をにごした。焔幽にはわからないが、彼女は明琳になにか引っかかるとことがあるようだ。
「陽明琳のなにが気にかかる?」
「いえ、彼女だけでなくほかの候補者にも気になる点はもちろんあります。なのでこの場での言及は控えさせてください。それにほら!」
 香蘭は明るい声をあげる。
「すぐに月見(つきみ)(うたげ)があるではありませんか」

 月見の宴は宮中行事のひとつだ。一年でもっとも月が美しいとされる日に開かれる。昼間から芸事と酒を楽しみ、一年に一度きりの月がのぼってくるのを待つのだ。
 天の主役が月に代われば、その後はもう無礼講。夜が更けるまでドンチャン騒ぎを繰り広げる。
「名前をあげた彼女たちはみな、なにか芸事を披露するはずです」
 月見の宴では女たちが楽器や舞を披露する場面がある。みな、自身の美貌と教養を存分にアピールしようと修練を積んで臨むはずだ。
「もちろん芸事に長けているのは妃嬪にとって大事な要素ですが……」
 そこで香蘭はニヤッと目を細めた。
「競い合う場面というのは人間の本質が出やすいもの」