(たしかに。予想していた以上の逸材だったかもしれないな)
「このままだと、千華宮を乗っ取られてしまうかもしれませんよ~。焔幽さまも女たちに少しは飴を配らないと」
 夏飛の発言はもっともで、焔幽は苦笑するしかない。どれだけ熱をあげても一瞥すらもくれない焔幽より、たっぷりと飴をくれる香蘭のほうが崇める偶像(アイドル)としては楽しいだろう。女官たちの心情は十分に理解できる。
 それに、飴を喜ぶのはなにも女だけではない。権力欲が強く、妃嬪たちに負けず劣らずの足の引っ張り合いが常である宦官たちの懐にも彼女はするりと入り込んでいた。

 焔幽の唇が楽しげに弧を描く。
「いっそ俺に代わって、国を統べてくれないだろうか」
「……なに寝ぼけたことを言ってるんですか」
「冗談だ、冗談」
「そんなことはわかっていますよ!」

 その夜、焔幽は自身の室に香蘭を呼んだ。
「さて、お前が〝蘭楊〟になってから早半月。任務の進捗はどうだ?」
 皇后と三貴人にふさわしい女を見つけたか?と問うたつもりだ。香蘭は悩ましげに唇を引き結んでいたが、意を決したように口を開く。
「その前に陛下にひとつ、申しあげたいことが」
「なんだ? 遠慮せず申してみろ」
 香蘭はじっとこちらを見る。
(やはり変わった女だな……)