三 蘭楊、ハーレムを作る


 瑞国皇帝である焔幽は、いつものごとく女たちの黄色い歓声を浴びていた。
「きゃ~、なんて力強い腕かしら。一度でいいから抱き締めてもらいたい!」
「私はあの眼差しが好きだわ。男らしくて……とろけてしまう」
 うっとりと、恍惚した女たちの目。それ自体は焔幽にとって見慣れた、いや見飽きたといっても過言ではないもの。が、しかし――。

「図々しいわね、あんたたち。田舎貴族の娘のくせにっ」
 彼女たちより少し位の高い別の女官が意地悪そうにフンと鼻を鳴らす。が、馬鹿にされた女たちも黙ってはいない。
「あら。蘭楊さまは出自で女を貶めたりする方ではないんですよ!」
「そうよ。自分も田舎出身だからと優しく笑ってくださったわ。この前もねーー」

(ほかの男への黄色い声を聞くのは初体験かもしれないな。あぁ、しまった。男ではないんだった。つい忘れそうになるな)
 朱雀宮から行政区へ向かう焔幽を先導する蘭楊、こと香蘭の広い背中をしげしげと眺める。歩き方、話し方、手振り身振り、ちょっとした視線の使い方まで、香蘭はもはや完璧に男だった。

「あ~ん。宦官さまとは思えない、男のフェロモンがたまらないわ」
「そうなのよ! 千華宮ではまず見かけない粗野な雰囲気が魅力よね~」
 歩いて進むたびに、行く先々の女官たちが蘭楊に目を奪われ頬を染める。