(願いを叶えてくれるというならば、わたくしに幸せな来世を! 絶世の美貌などいらないから、平凡でささやかで温かい日々を。――寵愛はもう、こりごりですので)

 数多の王朝や民族が数百、数千年と覇権を競い続けてきたこの東大陸。その荒波のなかで長い歴史を刻んできた瑞の国。現在は大陸のちょうど真ん中に広大な領地を持ち、押しも押されもせぬ大国として君臨している。
 その瑞国の生きる伝説とも呼ばれた偉大な皇后、貴蘭珠がたった今、三十年の短い人生に幕をおろした。

 蘭珠が『うさんくさい』『安っぽい』とこきおろした、かの水晶の力はどうやら本物だったようだ。悪態をつきまくり、その効力をいっさい信じていなかった彼女の願いすら水晶はあっさりと叶えてしまった。
 そんなわけで、貴蘭珠は望みどおりの来世を賜った。
 この物語は身分も美貌もなく、もちろん高貴なお方からの寵愛などには生涯縁のなさそうな、ひとりの平凡な女が主人公だ。