それからほんのひと月後。焔幽はまんまと雪寧を説得し、香蘭は公主づき女官から皇帝づき偽宦官へとジョブチェンジすることになったのだった。
香蘭はやむを得ない事情により郷里に帰り、代わりに彼女の弟が宦官として宮中に来ることになった。それが焔幽の考えた表向きの説明。無理があるんじゃないかと思うが、あまり目立たぬ公主に仕えていた、下級女官がどうなろうと千華宮では誰も気にしない。
雪紗宮の同僚たちだけは悲しんでくれたので、やや心苦しくはあったが「今までお世話になりました。これからは弟をどうぞよろしく」と嘘っぱちの別れのあいさつを済ませてきた。
そして、今度は朱雀宮にひとり部屋をもらうことになった。
詩清と一緒に使っていた女官部屋よりずっと広く、調度も豪華だ。皇帝の側近は宦官のなかでもエリートなのだ。
(気をつけていたつもりだったのに、やはり出世してしまったわね)
部屋を見渡した香蘭は小さくため息をつく。
「着替えは済んだか?」
香蘭の部屋になったはずの場所に、当然のような顔をして焔幽が足を踏み入れてきた。
「ほぅ。予想以上に似合うじゃないか」
袍と呼ばれる上着をかぶり、髪を宦官帽のなかにまとめた香蘭の姿を見て焔幽は満足そうに唇の端をあげた。
香蘭はやむを得ない事情により郷里に帰り、代わりに彼女の弟が宦官として宮中に来ることになった。それが焔幽の考えた表向きの説明。無理があるんじゃないかと思うが、あまり目立たぬ公主に仕えていた、下級女官がどうなろうと千華宮では誰も気にしない。
雪紗宮の同僚たちだけは悲しんでくれたので、やや心苦しくはあったが「今までお世話になりました。これからは弟をどうぞよろしく」と嘘っぱちの別れのあいさつを済ませてきた。
そして、今度は朱雀宮にひとり部屋をもらうことになった。
詩清と一緒に使っていた女官部屋よりずっと広く、調度も豪華だ。皇帝の側近は宦官のなかでもエリートなのだ。
(気をつけていたつもりだったのに、やはり出世してしまったわね)
部屋を見渡した香蘭は小さくため息をつく。
「着替えは済んだか?」
香蘭の部屋になったはずの場所に、当然のような顔をして焔幽が足を踏み入れてきた。
「ほぅ。予想以上に似合うじゃないか」
袍と呼ばれる上着をかぶり、髪を宦官帽のなかにまとめた香蘭の姿を見て焔幽は満足そうに唇の端をあげた。