夜伽を諦めてもらえたのなら長居は不要。そう思い、香蘭は腰を浮かせようとしたが衣の裾を焔幽に引っ張られた。
「まぁ、待て」
仕方なく、もう一度居住まいを正す。
「俺からもひとつ助言がある」
「なんでしょうか」
「お前はなかなか賢そうだが、早とちりが過ぎる。俺は夜伽をさせたくてお前を呼んだのではない」
香蘭は「まぁ!」と純粋な驚きをあらわにした。袖にされた負け惜しみなのでは?と彼の顔をしげしげとのぞくが、そういうわけではなさそうだ。
「こんな夜も更けた時刻に呼び出したのに、ですか?」
「俺は政務が忙しい。夜しか空いていないのだ」
「わざわざ朱雀宮まで呼び寄せて?」
「お前は下級女官で、部屋は同僚と一緒だろう。あまり人に聞かれたくない話なんでな」
香蘭は唖然としてつぶやく。
「この私を前にして夜伽を期待しない殿方が存在するとは……世界は広い。私もまだまだ未熟でしたのね」
清々しいまでの香蘭のナルシストぶりに焔幽はもうたまらないと噴き出した。仮面皇帝の異名をとる彼らしからぬ爆笑ぶりだった。
「はっ、はははっ。認める、たしかにお前は魅力的だ。なんともあらがいがたい」
「それは、言われなくても知っておりますけど」
焔幽はひとしきり笑ったあとで、表情を引き締めて香蘭を見る。
「うむ、お前の魅力はよくわかった。だが、さっきの助言は守るから心配するな。俺は女をあまり好まないのだ」
「まぁ、待て」
仕方なく、もう一度居住まいを正す。
「俺からもひとつ助言がある」
「なんでしょうか」
「お前はなかなか賢そうだが、早とちりが過ぎる。俺は夜伽をさせたくてお前を呼んだのではない」
香蘭は「まぁ!」と純粋な驚きをあらわにした。袖にされた負け惜しみなのでは?と彼の顔をしげしげとのぞくが、そういうわけではなさそうだ。
「こんな夜も更けた時刻に呼び出したのに、ですか?」
「俺は政務が忙しい。夜しか空いていないのだ」
「わざわざ朱雀宮まで呼び寄せて?」
「お前は下級女官で、部屋は同僚と一緒だろう。あまり人に聞かれたくない話なんでな」
香蘭は唖然としてつぶやく。
「この私を前にして夜伽を期待しない殿方が存在するとは……世界は広い。私もまだまだ未熟でしたのね」
清々しいまでの香蘭のナルシストぶりに焔幽はもうたまらないと噴き出した。仮面皇帝の異名をとる彼らしからぬ爆笑ぶりだった。
「はっ、はははっ。認める、たしかにお前は魅力的だ。なんともあらがいがたい」
「それは、言われなくても知っておりますけど」
焔幽はひとしきり笑ったあとで、表情を引き締めて香蘭を見る。
「うむ、お前の魅力はよくわかった。だが、さっきの助言は守るから心配するな。俺は女をあまり好まないのだ」