妙な沈黙がおりた。ニコニコしている香蘭と目をみはる焔幽。ややあって焔幽が口を開く。
「お前は視力に問題があるのか?」
「いいえ」
「では、どこか遠くの生まれか? 瑞とは美意識が異なる国なんだな」
「いいえ、私はこの瑞国の生まれですわ」
 前世さえもこの国の人間だった。瑞国民としては焔幽よりかなり先輩だと、香蘭は胸を張った。

 また沈黙が流れる。
「これは決して侮辱の意味ではない。が、聞きたい。お前は自分がそれほどまでに美しいと思っているのか?」
 たしかに侮辱ではないようだ。焔幽の顔にそういった色は浮かんでおらず、あるのは純粋な好奇心だけ。
「千華宮には瑞国中から美女が集まっている。俺がそんな女たちにまったく関心を示さないとのうわさは聞き及んでいるだろう?」
 香蘭は余裕たっぷりにうなずいてみせる。
「そうですわね。この外側はたしかに現在の美女の基準からいくと中の上といったところでしょうか?」
 外側、である自分の身体をポンポンと叩きながら香蘭は言う。「いや、中の上でも自惚れが過ぎるだろう」という焔幽のツッコミは完全に無視して続ける。