「香蘭、真っ青だけど大丈夫? もしかして私、困ったお願いごとをしてしまったかしら」
 雪寧が申し訳なさそうに眉尻をさげる。
「大丈夫ですよ、雪寧さま。まさか自分にお声がかかるとは思っていなくて、香蘭もびっくりしているんでしょう」
 詩清が言えば、みんなも口々にしゃべり出す。

「本当よね。香蘭よりはまだ私のほうが納得できるわよね」
「え~、あんたと香蘭はどっこいでしょ。顔はともかくスタイルならこの宮では私が……」
「ここは花街じゃないのよ。当代の陛下にお仕えするなら、この私の教養が!」
 これまで散々ピラミッドの底辺だと自分たちを卑下していた彼女たちだが、まさかの同僚、それも決して美女とは言えぬ香蘭が指名されたことで妙な自信が湧いたようだ。

「陛下の趣味はよくわからないけど大出世じゃない、香蘭!」
 詩清はにこやかに香蘭の背を叩く。
「もし宮持ちの妃にでもなれたら、上等な衣の一枚くらい恵んでね」
「私は西大陸の砂糖菓子がいいわ。一年分、頼んだわよ」
 詩清はほんの軽口のつもりだろうが、食いしん坊の鵬朱は目が本気だ。

 雪寧が心配そうに香蘭の顔をのぞく。
「じゃあ、お願いして大丈夫かしら。陛下からどうしてもと懇願されてしまって、私としても少し断りづらくもあって」
「えぇ。なんの問題ございません。どうかご安心なさってくださいませ、雪寧さま」
(あわわ、私の口ってばなにを勝手に!)