二 モグラ、偽宦官になる
千華宮に来てひと月と少し。香蘭はいまだかつてない大ピンチにおちいっていた。彼女の職場である雪紗宮も阿鼻叫喚の様相を呈している。
「ほ、本当に本当に『香蘭』とおっしゃったのですか?」
「き、聞き間違いではなく?」
目玉をひんむいた女官たちの質問に、雪寧はおっとりとうなずいた。
「えぇ。間違いなく『香蘭を寄こすように』とおっしゃいましたよ、陛下は」
うえぇぇ~と、言葉にならない悲鳴があちこちからあがる。
「皇帝陛下が、香蘭に、朱雀宮に来るよう命じた。間違いないんですね?」
ひとつひとつ確かめるように詩清が雪寧に聞く。
「えぇ、そうよ」
詩清と女官たちは互いに顔を見合せ、一様に首をひねった。
「女官に陛下のお手がつくのは、ないってこともないわよね?」
「そうね。たいがいは有力妃嬪のそば仕えとかの上級女官だけど」
「もしくはやってきた瞬間に話題をさらう絶世の美女とか!」
「そんな逸話、あの伝説の貴蘭朱さまくらいしか聞かないわよ」
女官たちはすっかり青ざめている香蘭を一瞥し、またまた首をひねる。
「香蘭って実は有力な貴族の娘なの?」
雪紗宮の人事を担当している者が即座に首を横に振る。
千華宮に来てひと月と少し。香蘭はいまだかつてない大ピンチにおちいっていた。彼女の職場である雪紗宮も阿鼻叫喚の様相を呈している。
「ほ、本当に本当に『香蘭』とおっしゃったのですか?」
「き、聞き間違いではなく?」
目玉をひんむいた女官たちの質問に、雪寧はおっとりとうなずいた。
「えぇ。間違いなく『香蘭を寄こすように』とおっしゃいましたよ、陛下は」
うえぇぇ~と、言葉にならない悲鳴があちこちからあがる。
「皇帝陛下が、香蘭に、朱雀宮に来るよう命じた。間違いないんですね?」
ひとつひとつ確かめるように詩清が雪寧に聞く。
「えぇ、そうよ」
詩清と女官たちは互いに顔を見合せ、一様に首をひねった。
「女官に陛下のお手がつくのは、ないってこともないわよね?」
「そうね。たいがいは有力妃嬪のそば仕えとかの上級女官だけど」
「もしくはやってきた瞬間に話題をさらう絶世の美女とか!」
「そんな逸話、あの伝説の貴蘭朱さまくらいしか聞かないわよ」
女官たちはすっかり青ざめている香蘭を一瞥し、またまた首をひねる。
「香蘭って実は有力な貴族の娘なの?」
雪紗宮の人事を担当している者が即座に首を横に振る。