すっかり弱りきった蘭珠の両手に、千華宮と同等の価値を認められた宝はずしりと重い。
「まぁ、陛下。わたくしなんかのためにこのような……」
 蘭珠の美しい瞳は潤ませるのは感激、ではなく悲哀の涙だ。
(なんと阿呆な! こんなどこからどう見てもうさんくさい代物にそんな大金を?)
 必死に策を弄して国庫を太らせてきた妻の努力を、この男はなんだと思っているのだろうか。
(いえ、万歩譲って無駄遣いは許しましょう。しかし西大陸に金を流すとは、陛下はこれまでの四十年でなにを学んできたのでしょう)
 さめざめと涙を流したいところだが、もう体内の水分も栄養分も不足しているのだろう、号泣するほどの力は残っていない。
 文字どおり命懸けて尽くしてきた男の間抜けた面を、蘭珠はあきれた気持ちで眺めた。。
 この男、見目はなかなかよいのだ。背が高く筋骨隆々、甘さのない凛々しい面差しはなよなよした宦官の多い千華宮ではとくに見栄えがする。だがしかし、甘さのない顔立ちとは裏腹に頭のなかは饅頭よりなお甘い。見栄えばかりに気を使い、肝心の味はただただ甘いばかりでいまいち。そういう饅頭はよくあるが、彼はまさにそんな感じ。
 とはいえ、長く仕えた夫だ。馬鹿な子ほどなんとやらというやつで、案外と情は移った。散々迷惑をこうむってきたが、どこか憎みきれないところもある。蘭珠はそっと彼の頬に手を伸ばした。