「ところで、そろそろ本腰を入れて三貴人くらいは選んでくださいね。爺が顔を合わせるたびに、まるで僕のせいだと言わんばかりにグチグチと小言を」
 夏飛はうんざりした顔でぼやく。爺というのは閨の管理をする担当専門部の長官、秀由(しゅうゆ)のことだろう。皇帝がどの妃のもとに渡ったかというのは国家の一大事なので、専門の部が設けられそれなりの人数が職務にあたっているのだ。焔幽が妃嬪のもとに通わなければ自分たちの存在意義がなくなると、焦っているらしい。

「わかってはいる」
 これだけの女が一か所に集められているのだ。ある程度の序列があったほうが統率が取れる。軍隊と同じだ。
「陛下は妃嬪に求める理想が高すぎるんですよ~」
 高い空を仰ぎ焔幽は言った。
「千年寵姫、貴蘭朱。俺はあれが欲しい」
 貴蘭朱を手に入れたうらやましい男の名は伯階(はくかい)という。伯階帝の時代については、飽きるほどに書物で学んだ。彼は瑞国史上で三本の指に入る賢帝と謳われているが、どれも皇后蘭朱を亡くす前の若い頃の功績だ。晩年はむしろ凡庸以下の皇帝だったと思う。史家たちの間では『伯階帝は愛する皇后を失ってからは体調を崩しがちだった。そのせいで満足な指揮を取れず治世が乱れた』というのが定説だが、焔幽は違う見解を持っている。

(伯階帝の功績はすべて貴蘭朱がもたらしたものだ。あの男自身の功績は、貴蘭朱を手に入れた。その一点のみ)