「腐りかけを食べ慣れている人間とは耐性に差があるだろう。今後は気をつけろ。女官たちを余計な仕事でわずらわせるのもよくないことだ」
 雪寧は申し訳なさそうにうなずいた。

「ところで、さっきの女官はなぜお前自身が犯人だと気がついたのだ?」
 あの女は雪寧自身に原因があるとわかったうえで、雪寧の名誉のためにあの場をごまかしたのだろう。
(主人に恥をかかせぬように。女官としては満点の立ち回りだな)
 その心遣いを千華宮の主である焔幽にもしてもらいたいものだが。
「あぁ! 香蘭は私の襟元についていた菓子の残りクズで気がついたのだと思います。みんなに気づかれぬようさりげなく払ってくれました」
「なんだ、そんなことか」
 焔幽はかすかに肩を落とす。驚くべき推理力の持ち主なのかと期待したが、違ったようだ。
(いやでも、目端のきく女であることは確かだな)

 あまり長くとどまっていては体調が万全でない雪寧の負担になる。焔幽は適度なところでおしゃべりをやめ、腰を浮かせた。
「それじゃ、ゆっくり養生するように」
「はい、ありがとうございます」
 愛らしい妹に目を細め、焔幽は彼女の髪に手を伸ばした。金細工の簪にそっと触れる。
「これは俺がやったものだな。よく似合っている」
 雪寧の顔がパッと輝いた。褒められてうれしいのだろう。