「いいえ、けじめは大切なものだと公主教育で学びましたから」
 焔幽は頬を緩めた。この生真面目な点も非常に好ましいと思っている。
 雪寧は自分の前ではかわいい妹に徹してくれる。公主のなかでも皇帝のお気に入りだと出しゃばったり、過剰になにかを求めてきたりしない。焔幽はたとえ身内であっても、自身の内側に踏み込まれるのを嫌う。人の感情の機微を読むのが上手な雪寧はそれを理解しているのだろう。

「ところで、雪寧。お前に腹痛をもたらした犯人はいったい誰なんだ?」
 おおかたの予想はついているが、少しおもしろがって焔幽は彼女に問いただした。雪寧はバツが悪そうに視線を泳がせる。
「お前は知っているんだろう」
 あの女官は雪寧に目で合図をしていた、「黙っておけ」と。
 雪寧は観念したようで、小声で真実を告げた。
「それはその……私自身です」

 なんでも二日ほど前に出た菓子がたいそう美味で、雪寧はそれをえらく気に入ったのだそうだ。
「ひと口ぶんだけ取っておこうかな~と思いまして」
 食い意地が張っていると思われるのが恥ずかしいので女官たちには内緒でこっそりと紙に包み、引き出しにしまったそう。
「なるほど。それを今日になって食べたわけだな」
 あまり日持ちのしない菓子で悪くなっていたのであろう。
「味見係の鵬朱が『菓子は白くなりかけたくらいがおいしい』とよく言っていたので」