焔幽の心の声を読んだかのような発言だった。焔幽は少し驚き、彼女の台詞の続きを待つ。
「もし春麗さまなら、雪寧さまのお衣装をすべてズタズタにするとか、髪をザンバラに切ってしまうとか、雪寧さまの美を損ねる方法を取る気がするんですよ」

 春麗なら雪寧の顔を焼く薬を投げつけるだろう。焔幽はそう考えたが、彼女の意見はもう少しマイルドだった。
(だが、あの女のほうが真実を見ているかもな)
 たしかに春麗は性根が曲がっているが、よくも悪くも〝お馬鹿さん〟なのだ。もう嫁入りしてもおかしくない年齢なのに、雪寧よりよほど子どもっぽい娘だ。顔を焼くという過激な発想は焔幽のもので、春麗はきっと思いつきもしない。

「でも、それなら誰が? やっぱり食事が悪くなっていたのかしら」
 女は雪寧にちらりと目を走らせ、それからみなにほほ笑んでみせた。
「だと思います。私たち女官とは違い、やはり公主さまのお身体は繊細なんですわ。雪寧さまは偉大なる皇帝陛下の妹君ですから」
 ものすごく強引に女は場をおさめた。が、彼女の声には不思議な説得力が宿っていて誰にも強引であることを悟らせない。
「そうね、たしかに」
「毒見をした鵬朱(ほうしゅ)はとくに内臓が頑丈だものね。この前もうっすら白くなりはじめた饅頭を平然と食べてたし」