夏飛のように率直に話せる人間はたしかに安心する。とはいえ――。
「無礼なのがよいというわけではない。いいから早く行け」
「御意」
 夏飛は踵を返し、サッと駆け出した。なにも命じていないが、焔幽の「宮中医を連れてこい」という意図を彼なら把握しているだろう。
「さて」
 夏飛の戻りを待つ間に雪寧の症状を確認しようと思い、焔幽は開きかけていた室の扉にもう一度手をかけた。が、そこで足を止める。
(俺の出る幕じゃないようだな)

 焔幽は扉の裏に隠れて、なかの様子を見守った。
 先ほどのクソ食らえ女官が場を仕切り、焔幽のしようと思っていたことをすでに進めている。
 女にしては野太く、しっかりとした声が焔幽の耳にも届いた。
「意識はしっかりしていらっしゃいますし、すぐにどうこうということは絶対にありません。雪寧さま、ご安心なさってくださいね」
 彼女は寝台に横たわる雪寧の背を撫で、力づけるように声をかけた。それから今度は女官たちに告げる。
「憶測で犯人を語るのはやめておきましょう。誰かの耳に入れば、かえって雪寧さまのご迷惑になります」
 聞いていた焔幽もそれにはうなずいた。春麗が知れば「雪寧のせいで自分の名誉は傷つけられた」と嬉々としてわめき立てることだろう。
(そもそも春麗なら……)
「あくまでも私の推測ですが、春麗さまはなにもしていないと思いますよ」