夏飛は焔幽が即位するより前、後ろ盾のない不遇な皇子のひとりに過ぎなかった頃から彼に仕え出した。焔幽にとってはもっとも信頼できる側近であり、弟みたいなもの。ゆえに彼のあまりにも気安い態度も許しているのだ。
「妹の女官にまで教育、指導をしてやるほど俺は暇ではない」
 焔幽は吐き捨てる。
「それに、無礼ではあるが女の言っていることは正しい」
 皇帝の権力はすさまじい。黒でも赤でも黄でも、白にすることなど造作もない。だからこそ、焔幽は絶対に見間違えてはいけないのだ。白なのか黒なのか、正しく見極める必要がある。朱雀の加護が得られるのは、その才のある皇帝だけ。才覚を失えば、朱雀は離れ玉座を追われることになる。

 夏飛はクスリと笑う。
「それに、陛下は無礼な人間がお好きですしね。僕をはじめとして」
 焔幽は黙る。夏飛の言葉が半分くらい図星だったからだ。権力のなかった焔幽はちっとも皇子らしくない子ども時代を送った。
 次期皇帝間違いなしと評されていた長兄の死後、残った兄弟たちと自分とを見比べ、これは自身が帝位につくべきだろうと判断したのでそうしたが……白状すると、皇帝の窮屈な生活はあまり性に合っていない。美辞麗句で飾り立て、なにが言いたいのか本題のさっぱりわからぬ臣下たちの話しぶりにはとくにイライラさせられる。逆に馬鹿にされているのでは?と疑ってしまうことさえある。