残念ながら彼らは崇高な使命感など持ち併せていない、ただのお役人だ。力のない雪寧など後回しということなのだろう。
「でも、じきに陛下がいらっしゃるわ。陛下を通じて依頼をかければ飛んでくるでしょう」
 その言葉にみなの顔がパッと明るくなる。
「あぁ、たしかにそうね。不幸中の幸いだわ」

 ところが、ここで詩清が余計なひと言をつぶやいた。
「……けど、私たちの管理不行き届きってことで陛下がお怒りになったりしないかしら」
 みなの顔がさーっと青くなる。室はまたいっせいに騒がしくなった。
「陛下は氷のように冷酷な方だといううわさよね」
「一族郎党皆殺し?」
「……どうしよう。雪寧さまに食事の膳をお運びしたの私だわ」
「ま、窓から逃げれば間に合うかも! ほら、すぐに行くのよ」
 膳を運んだ者は公主の女官とも思えぬはしたない姿で窓に足をかけた。上を下への大騒ぎになりはじめたので香蘭はパンと一度大きく手を叩いた。前世、皇后時代の癖がつい出てしまったのだが、高い音はこういう場面では抜群の効果を発揮する。みながハッと我に返った。

「食材の管理はいつもどおりでしたか?」
 香蘭はその仕事を担当した者に顔を向ける。
「もちろん。手順を守っているわ」
 次に香蘭は、ぐるりと室全体を見渡す。
「念のため聞きますけど、このなかに毒を入れた者はいませんよね?」
 全員がコクコクと素早く首を縦に振る。