誰かがぽつりとこぼした声に室がシンと静まり返る。春麗は雪寧にとって三番目の姉で、年は十六。あまり器量がよくないために劣等感をこじらせている様子で、見目のいい雪寧がとくに気に食わないようなのだ。

「そういえば、朝も通りがかりになにか嫌みを言ってらしたわよね。そのときに食事用の器になにか入れるのは不可能ではないかも」
「ありえるわね。あまりいい嫁入り話が来ないと最近はとみにイライラなさっておいでだから」
「それを言うなら、ほかの公主さま方も」

 いやいや、妃嬪候補としてやってきた女性のうちの誰かでは? そんな調子で犯人捜しが始まってしまった。新入りの自分が場を仕切るのは出しゃばりすぎだろうと、香蘭は黙って事態を見守っていたのだがいっこうに埒が明かない。痺れを切らして、口を開いた。

「落ち着きましょう。今大事なのは原因ではない。苦しんでいる雪寧さまを回復させるという結果を求めるべきだわ」
 凛としてよく通る声には妙な貫禄があった。従わなくてはという気にさせられて、誰もが口をつぐみ香蘭を見た。
「まず、宮中医は来てくださらないのでしょうか?」
 香蘭は尋ねた。宮中には専属の医師と薬師がいる。彼らに診てもらうのが一番いいのだが、返ってきた答えは香蘭が予想したとおりだった。
「もちろん呼んだわ。でも『向かうが、少し時間がかかるかも』とのことで、いつになるのか」