「えぇ。殿方は案外とロマンチックです。転んだ先に彼がいたとか、同じ月を見あげたとか。なんでもいいので〝運命〟を匂わせるのがオススメですわね」
「なるほど……じゃないわよ! 正気に戻るのよ、詩清」
彼女ははたと我に返り、自身の頬をペチペチと叩いた。
「私ったら、モグラの恋愛指南なんて間に受けちゃって」
「あら。モグラだって恋愛くらいはしているかもしれませんよ。広い世界には魔性のモグラが存在する可能性も……」
「まったく。馬鹿なこと言ってないで、さっさと掃除を終わらせるわよ」
詩清はガシガシと箒を動かしはじめた。
「馬鹿なことではないですよ~。詩清さんなら努力の方向性を間違わなければ、宮持ちの妃になれると信じているからこそです」
詩清はのっぺりと特徴の薄い顔立ちだ。印象に残らず大勢の女が並ぶと埋もれてしまいがち。だが、逆に考えれば欠点のない顔ともいえるのだ。
(詩清さんは化粧で泣きボクロを作るとか、誰も使わない奇抜な色を瞼にのせるとか、そういう簡単なテクニックが非常に有効なタイプなので……戦略は練りやすいと思うんですよね)
今、香蘭の頭は高速で回転し、いかにして詩清を宮持ちの妃にするかを計算していた。
「だいたいね、女官が宮持ちの妃になる方法だなんて。そんなアドバイスができるのは千華宮の長い歴史のなかでもひとりしかいないでしょう?」
「私でしょうか?」
「違うわよ!」
「なるほど……じゃないわよ! 正気に戻るのよ、詩清」
彼女ははたと我に返り、自身の頬をペチペチと叩いた。
「私ったら、モグラの恋愛指南なんて間に受けちゃって」
「あら。モグラだって恋愛くらいはしているかもしれませんよ。広い世界には魔性のモグラが存在する可能性も……」
「まったく。馬鹿なこと言ってないで、さっさと掃除を終わらせるわよ」
詩清はガシガシと箒を動かしはじめた。
「馬鹿なことではないですよ~。詩清さんなら努力の方向性を間違わなければ、宮持ちの妃になれると信じているからこそです」
詩清はのっぺりと特徴の薄い顔立ちだ。印象に残らず大勢の女が並ぶと埋もれてしまいがち。だが、逆に考えれば欠点のない顔ともいえるのだ。
(詩清さんは化粧で泣きボクロを作るとか、誰も使わない奇抜な色を瞼にのせるとか、そういう簡単なテクニックが非常に有効なタイプなので……戦略は練りやすいと思うんですよね)
今、香蘭の頭は高速で回転し、いかにして詩清を宮持ちの妃にするかを計算していた。
「だいたいね、女官が宮持ちの妃になる方法だなんて。そんなアドバイスができるのは千華宮の長い歴史のなかでもひとりしかいないでしょう?」
「私でしょうか?」
「違うわよ!」