若き新皇帝と雪寧は腹違いの兄妹に当たる。焔幽は冷酷な人間ともっぱらのうわさだが、母を失い孤独な雪寧のことは気にかけている様子だ。この宮にもときおり顔を出している。
雪寧はうれしそうにほほ笑む。
「実はね、今日もお越しいただけることになっているの。この髪、香蘭に整えてもらったって陛下に自慢するわね」
「いえいえ。私の名前など、陛下のお耳汚しになるだけですわ」
(下手に名を覚えられてしまっては困りますわ!)
かなり本気で、香蘭は雪寧を止めた。
彼女の室を出たあとは、掃除などの雑務を担当する宦官たちにさりげなく「雪寧がどれだけ姉公主に憧れ、尊敬してやまないか」という話を聞かせた。彼らも女官に負けず劣らずのおしゃべり好きなのでいい具合に千華宮に広まることだろう。
事件が起きたのはその日の昼過ぎのことだ。雪紗宮に皇帝陛下が訪れる約束の時間が近づいていたので、女官たちは雪寧の室を丁寧に整えているところだった。
詩清と香蘭は前庭の清掃担当。箒を動かしながら、詩清がぼやく。
「私たちも一度くらいは陛下の顔を拝んでみたいものよねぇ」
千華宮のピラミッドから見ればどんぐりの背比べ程度のものだが、女官のなかにも複雑な序列というものが存在する。常に雪寧のそばに控え、皇帝が訪ねてきた際に対応しても許されるのは上位女官だけなのだ。ふたりは残念ながらその地位にない。
雪寧はうれしそうにほほ笑む。
「実はね、今日もお越しいただけることになっているの。この髪、香蘭に整えてもらったって陛下に自慢するわね」
「いえいえ。私の名前など、陛下のお耳汚しになるだけですわ」
(下手に名を覚えられてしまっては困りますわ!)
かなり本気で、香蘭は雪寧を止めた。
彼女の室を出たあとは、掃除などの雑務を担当する宦官たちにさりげなく「雪寧がどれだけ姉公主に憧れ、尊敬してやまないか」という話を聞かせた。彼らも女官に負けず劣らずのおしゃべり好きなのでいい具合に千華宮に広まることだろう。
事件が起きたのはその日の昼過ぎのことだ。雪紗宮に皇帝陛下が訪れる約束の時間が近づいていたので、女官たちは雪寧の室を丁寧に整えているところだった。
詩清と香蘭は前庭の清掃担当。箒を動かしながら、詩清がぼやく。
「私たちも一度くらいは陛下の顔を拝んでみたいものよねぇ」
千華宮のピラミッドから見ればどんぐりの背比べ程度のものだが、女官のなかにも複雑な序列というものが存在する。常に雪寧のそばに控え、皇帝が訪ねてきた際に対応しても許されるのは上位女官だけなのだ。ふたりは残念ながらその地位にない。