(殿方も同じね。大切なのは相性であって、どんな女性にとっても理想的な夫なんて幻想です)
 そこまで考えてから香蘭は、あら?と首をかしげる。
(でも、私は全世界の殿方にとって理想の女性ですよね? 困ったわ、私の知性と経験から導き出された完璧な理論が私の存在によって論破されてしまいました。世の理さえも超越してしまう魔性。あぁ、罪深いですわ)

 自己陶酔して悶える香蘭を見て、雪寧はがっかりした顔になる。
「香蘭? そんな苦しそうな顔をして……やっぱり私じゃ翡翠妃のようにはなれないってことかしら」
 香蘭はハッと我に返ると、慌てて首を左右に振る。
「いえいえ。大人っぽく綺麗な髪型ですよね? もちろん大丈夫でございます」
 鏡のなかの雪寧を見据え、香蘭は続ける。
「ですが、翡翠妃さまと雪寧さまはお顔の形や髪質が異なります。まったく同じでは雪寧さまにはしっくりこないと思いますので……少しアレンジさせてもらってよろしいでしょうか?」
 陽明琳はいわゆるうりざね顔である。対する雪寧は丸顔。似合う髪型も当然変わってくる。
「雪寧さまは頭頂部にボリュームを出す髪型がお似合いです。翡翠妃はよく耳の下に花飾りをつけていらっしゃいますが、雪寧さまの場合はそれを……」

 香蘭が丁寧に説明すると、彼女は満足そうにうなずいた。
「香蘭に任せるわ。髪型もお化粧も衣装もあなたに任せると、いつもみんなに褒められるの」