「あんな罪をおかしておいて陛下のそばにいるわけにはまいりません。極刑にとお願いしましたが認めてもらえませんでしたし……なので心機一転、どこかに嫁ぐことに決めました」
 雪寧はふふっといたずらっぽく笑って付け加える。
「実は私、春麗お姉さまより縁談のお話が多くあがっているのですよ。誰にするかは陛下が決めてくださるでしょう」
 香蘭はしばらく開いた口が塞がらない状態だったが、雪寧が決めたことならと祝福することに決めた。
「素敵なご縁が結ばれますよう、祈っております」
 恭しく頭をさげる。

「ありがとう」
 あまり長居しては彼女の身体に障ると香蘭はそっと腰を浮かせた。別れのあいさつを口にした香蘭に、雪寧が言う。
「私、あなたに早くここに戻ってきてとお願いしたでしょう?」
 あのときすでに雪寧には妖術の影響が及んでいた。香蘭を焔幽のそばから引き離したくてたまらなかったのだろう。
 だが、彼女は意外な、そしてなんともうれしい言葉をくれた。
「あれね、半分はあなたへの嫉妬。陛下がどんどんあなたに惹かれていくのが憎らしかったの。でも残り半分は言葉どおりだったのよ」
 雪寧は彼女らしい、そよ風のような笑みを浮かべる。
「香蘭は誰よりも頼りになって、一緒にいると楽しかったから」
「雪寧さまが千華宮を出られてしまったら、私には帰る場所がなくなってしまいます。仕方ないのでこのまま宦官として出世を目指すかもしれません」
 そこで香蘭は鮮やかに笑ってみせた。