焔幽の首元でなにかが光った。
「陛下、危ない!」
 香蘭は叫び、一歩大きくふたりのもとへ近づいた。やはり雪寧は妖術の力に操られている。袖に隠していた刃物のようなもので焔幽を狙ったのだ。
 続く映像を見たくないと思い、香蘭は両目をつむりかけたが……焔幽は軽々と雪寧の攻撃を回避し、逆に彼女の両手を押さえた。香蘭はほぅと胸を撫でおろす。

「焔幽お兄さま……」 
 苦しげな声で彼は答えた。
「お前の気持ちに対する答えは、本来の雪寧に伝える」
 彼は雪寧の手首から腕輪を奪い、ゴツゴツした大石めがけて叩きつけた。ピシッという硬質な音を立てて黒玉が真っ二つに割れた。
 雪寧は糸の切れた操り人形のように、くたりとその場に倒れた。
 幽鬼は登場したときと同じくザァと風を揺らめかせて、煙のように細くなり消えていった。

 焔幽は雪寧を抱きあげ、夏飛と一緒にいた宦官に「室に運んで休ませろ」と指示をした。彼女は意識を失っている様子だ。
 雪寧を連れて彼らが去ってしまうと、この場には焔幽と香蘭、そして夏飛だけが残された。
 三人とも言葉を発することもできず、その場に立ち尽くした。悪い夢でも見ていたような妙な気分なのだ。
 沈黙を破ったのは夏飛だ。
「とりあえず事件解決ということになりますかね?」
「夏飛さん」
 香蘭は思いきり彼をにらみつける。
「くれぐれも、くれぐれも、陛下には内密にと言ったじゃないですか!」