(とはいえ、犯人と呼ぶのはかわいそうですね)
 彼女が本物を手にしてしまったのは、きっと偶然なのだろうから。千華宮で流行り出した腕輪。どう紛れ込んだのかはわからぬが、雪寧が手にしたのは本物の呪具だった。妖術師の力がたっぷりと封じられた恐ろしい代物。
 雪寧はきっとあの黒玉に、愛する人の心をひとり占めしたいと唱えたのだろう。
 夜は妖術の力がより強まる。彼女は夜毎腕輪に操られ、節寧であって節寧ではない人間となりさまよった。そして、願いを同じくするあの幽鬼と共鳴し、香蘭を排除すべく動き出した。

「ええっと、腕輪の石を割ればいいんでしたっけ」
「そのとおりです。早く!」
 黒玉が割れれば妖術の呪いは解ける。妖術を失った幽鬼は無力化し、人間に実害を加えることはできなくなるはず。
 夏飛がグッと雪寧の腕を締めあげる。
「きゃあ」
 雪寧の儚げな悲鳴に、彼はほんの一瞬力を緩めてしまった。
(あぁ、夏飛さん。ちょろすぎます)
 香蘭は頭を抱えたい気持ちでそれを見ていた。
 とはいえ相手は公主だ。夏飛がとっさに引いてしまうのも理解はできる。宮仕えが長い人間なら誰もがそうなる。