癖のある長い髪が女郎蜘蛛の網のように広がり、獲物をからめ取ろうとしてくる。頬や唇はどろりと朽ち果てているのに、瞳だけが赤く爛々とした光を放っている。
地を這うようなうなり声は、脳に直接ささやかれているようだ。
「――渡すものか。あれは私の、私だけのものだ」
獣じみた鋭利な爪が香蘭の喉を目がけて伸びてくる。香蘭はサッと身をかがめて、それをよけた。地面に片膝をついて、幽鬼を見あげる。体術には自信があった。さらに、香蘭の身体はとても頑丈で多少の攻撃なら余裕で耐えられそうだ。
(ですが、化物が相手となるとさすがに……)
幽鬼のくせにスピードがあるのは、ずるくないだろうか。香蘭はあっという間に彼女に組伏せられ、固い地面に頭をついた。
「くっ」
「あれの心は永遠に私のもの。未来永劫、私にとらわれたままでいればいい。――ほかの人間に心を移すなどあってはならぬっ」
鋭い爪先が香蘭の首筋に食い込む。
痛みに眉をひそめつつ、香蘭は反撃を投げかける。
「もう無理ですよ。陛下はそれはそれは、私にご執心ですから。あなたのことなんて忘れかけています」
(さぁ、コレが一番こたえるでしょう。どんどん苦しんでくださいませ)
愛を恐れる焔幽は、ある意味でずっと彼女にとらわれ続けていたのだ。その事実は彼女にとって極上に甘美だったのだろう。焔幽が檻から出ようとするのが悔しくてたまらないのだ。
地を這うようなうなり声は、脳に直接ささやかれているようだ。
「――渡すものか。あれは私の、私だけのものだ」
獣じみた鋭利な爪が香蘭の喉を目がけて伸びてくる。香蘭はサッと身をかがめて、それをよけた。地面に片膝をついて、幽鬼を見あげる。体術には自信があった。さらに、香蘭の身体はとても頑丈で多少の攻撃なら余裕で耐えられそうだ。
(ですが、化物が相手となるとさすがに……)
幽鬼のくせにスピードがあるのは、ずるくないだろうか。香蘭はあっという間に彼女に組伏せられ、固い地面に頭をついた。
「くっ」
「あれの心は永遠に私のもの。未来永劫、私にとらわれたままでいればいい。――ほかの人間に心を移すなどあってはならぬっ」
鋭い爪先が香蘭の首筋に食い込む。
痛みに眉をひそめつつ、香蘭は反撃を投げかける。
「もう無理ですよ。陛下はそれはそれは、私にご執心ですから。あなたのことなんて忘れかけています」
(さぁ、コレが一番こたえるでしょう。どんどん苦しんでくださいませ)
愛を恐れる焔幽は、ある意味でずっと彼女にとらわれ続けていたのだ。その事実は彼女にとって極上に甘美だったのだろう。焔幽が檻から出ようとするのが悔しくてたまらないのだ。