中天に月がのぼる。月見の宴で見せてくれた、まろやかで優しい姿とはまた違う。今宵の月は真円に少し足りず、いびつだ。そして異様なまでに赤い。放つ狂気にのまれてしまいそうなほどに。
辺りはシンと不気味なほどに静かだった。今夜の琥珀宮の護衛は香蘭ひとり。むろん自身でそう主張したのだ。
(余計な被害者を増やす必要はありませんから)
香蘭は幽鬼が来ることを確信している。なぜなら、あの幽鬼と彼女を操る真犯人の狙いは香蘭だからだ。
(次々と宦官を襲ったのは、ただのカモフラージュ)
幾人もの宦官が狙われ、その被害者のうちのひとりに残念ながら〝蘭楊〟も入ってしまう。そうすれば、最初から〝蘭楊〟が狙いだったとは誰も疑わない。
(たとえ、被害者のなかで私だけが命を落としたとしても)
ひやりと冷たい風が吹いて、木々がザァーと揺らめく。辺りの温度が急激にさがり、香蘭は寒気を覚えた。緊張と興奮と恐怖、それらが入り交じってゾクゾクと肌が粟立つ。
「さぁ、いらっしゃいましたね。――琵加さん」
そちらに視線を向ければ、待ち構えていたように柳の陰から彼女が姿を現す。すさまじいスピードで土気色の顔が迫りくる。さすがの香蘭も冷や汗が噴き出た。
「幽鬼というのは……もっとこう、おどろおどろしくゆったりと登場なさるものかと思っていましたが」
辺りはシンと不気味なほどに静かだった。今夜の琥珀宮の護衛は香蘭ひとり。むろん自身でそう主張したのだ。
(余計な被害者を増やす必要はありませんから)
香蘭は幽鬼が来ることを確信している。なぜなら、あの幽鬼と彼女を操る真犯人の狙いは香蘭だからだ。
(次々と宦官を襲ったのは、ただのカモフラージュ)
幾人もの宦官が狙われ、その被害者のうちのひとりに残念ながら〝蘭楊〟も入ってしまう。そうすれば、最初から〝蘭楊〟が狙いだったとは誰も疑わない。
(たとえ、被害者のなかで私だけが命を落としたとしても)
ひやりと冷たい風が吹いて、木々がザァーと揺らめく。辺りの温度が急激にさがり、香蘭は寒気を覚えた。緊張と興奮と恐怖、それらが入り交じってゾクゾクと肌が粟立つ。
「さぁ、いらっしゃいましたね。――琵加さん」
そちらに視線を向ければ、待ち構えていたように柳の陰から彼女が姿を現す。すさまじいスピードで土気色の顔が迫りくる。さすがの香蘭も冷や汗が噴き出た。
「幽鬼というのは……もっとこう、おどろおどろしくゆったりと登場なさるものかと思っていましたが」