「えぇ、どうして? 皇后は明琳さま以外にいないと誰もが口をそろえるし、三貴人だってそう悩むほどではないのでしょう」
 有力な候補者は五名。対して席は四つしかない。落とす人物を選ぶという難しさもあるし、そもそも明琳を皇后に推薦すべきかどうかも香蘭はまだ決めかねていた。
 だが、そんな内情を雪寧に話す必要はないだろう。

「妃嬪選びが終われば、あなたは雪紗宮に戻ってくる約束だわ」
「はい。そのとおりなのですが、陛下は私に、妃嬪選びが終わっても残れとおっしゃっていますので」
 近くにいた夏飛がけげんそうに目を瞬くのが見えた。が、香蘭はそれには気づかぬふりを決め込む。
「今も、陛下にど呼ばれて朱雀宮に行くところなんです。ですのでそろそろ、失礼いたします」
 丁寧におじぎをし、朱雀宮へと歩を進める。

「陛下がいつ、そんなことをおっしゃったのですか?」
 歩きながら夏飛が問う。聞いていないぞと言いたげな顔だ。
「夏飛さん。準備をしましょう。おそらく今夜、幽鬼が出ます」
 香蘭の返事に彼はゴクリと喉を鳴らした。