女官たちは千華宮のなかではピラミッドの下層にいるが、一歩宮の外に出ればそれなりのおうちのお嬢さんだ。たいていの場合、中流貴族の娘が花嫁修業として送り込まれてくるものだから。皇帝のお手つきにならなれなければ、千華宮を出て嫁に行くことも許されている。
 そう、彼女たちは修業に来ている。つまり、来た時点ではなにもできない世間知らずのお嬢さんであることが多い。畑仕事などさっぱりだ。

「私の生家は田舎で、外仕事には慣れていますから」
 雪寧の宮はあまり予算を割いてもらえないので、下働きの数が少ない。本来は下働きの者がやるような仕事も器用にこなす香蘭は重宝された。
「そうそう。最初は女官より下働きのほうが向いてるんじゃない?と思ったりもしたわよね」
 ある女官が言えば、詩清も大きくうなずく。
「うん。可憐で上品な雪寧さまの女官にはふさわしくないと思ったけど。まさかお気に入りになっちゃうなんてね」

 詩清の言葉にかぶせるように「香蘭! 香蘭はどこ?」と鈴を転がすような声が届いた。
「あら、うわさをすればね。香蘭、雪寧さまがお呼びだわ」
 香蘭はスッと立ちあがり、声のしたほうへと歩を進める。
「はーい。香蘭はここでございます。すぐに参ります」
 のっそりとした香蘭の後ろ姿を眺めながら、詩清たちは顔を見合わせる。
「不思議な子よね」
「うん。田舎貴族で決して雅とはいえない容貌なのに」