(考えすぎかもしれないですが、妖術師の存在を疑うタイミングであれが千華宮で流行り出す。となると、気になってしまいますよね)
「へぇ、それは初耳でした」
「それで、あの腕輪はどこの宮に出入りする商人が持ってきたのでしょう? それはいつ?」

 後宮は宦官以外の男は立ち入れない。が、女の出入りは案外と多い。もちろん許可証は必要だが、王族が代々贔屓にしている商人、芸人、それぞれの妃嬪たちが実家時代から懇意にしている女たちも商売にやってくる。
 あの腕輪を最初に千華宮に持ち込んだ人間は誰なのだろう。そして、それは幽鬼騒動の前か後か。
「明琳さまが手にしたのはいつですか? 最初の被害者が出るより前?」
「いいえ、後ですね。明琳さまが手に入れたのはつい最近のことのようです」
 となると、幽鬼騒動と明琳は無関係ということになるだろうか。
 夏飛が詳しい話を続ける。
「明琳さまより先に李蝶公主がつけていたそうですよ」
「李蝶さま?」
「えぇ、千華宮のあの品を持ってきたのは、公主さま方のお抱え商人です。衣装や簪などを扱っているようで、普段から付き合いもあり怪しい人物ではなさそうでしたが」
「公主さま方の……」
「はい。最初に公主さまの間で流行し、それが妃嬪たちの耳に入り、件の商人は妃嬪たちの宮にも売りに行き、ひと儲けしたようですね」
「公主さまたちが腕輪を手に入れたのは事件より……」
 香蘭の言葉を夏飛が引き継ぐ。
「前です」

 霧のなかだった事件の全容が少しずつ見えてくる。
(もしかすると、幽鬼の狙いは陛下ではないかも)
「そうそう、陛下が『たまには顔を出せ』とご立腹でしたよ」
「有能だと、あちこちで頼りにされてしまって困りますねぇ」
 口ではそう言いつつも、彼のことは少し気がかりだった。倒れたあとも平然と仕事をこなしているようだが……。