それから数日。焔幽は乳母の幽鬼のことなどなかったかのように、バリバリと政務をこなしているようだ。夏飛と話し合い、焔幽の護衛は彼に任せることにした。香蘭は現在の任務である琥珀宮の護衛をしっかりとこなす。いつ幽鬼が出てもいいように、気を張りつめて過ごしているのだが、それをあざ笑うかのように幽鬼はぱたりと現れなくなった。
(う~ん、幽鬼ですから気まぐれなのでしょうか)
 気合いが空回りして、なんとも歯がゆい。仕方なくあり余る精力を琥珀宮の庭掃除に注いでいる。

「まぁ、蘭楊さま。こっちは女官の仕事ですので結構ですよ」
「ついでですから。手伝いますよ」
 雑事は宦官と女官で分担しているが、ざっくりと場所で分けているので女性の身ではなかなか大変な力仕事も多い。
(まぁ、一応私も女性の身体なんですけどね。宦官姿になじみすぎてしまいました)
「でも……」
 申し訳なさそうにする彼女の手を取り、優しくほほ笑む。
「こんなに華奢で美しい腕に、無理はさせられませんので」
 女官はほぅと魂を抜かれたような顔をする。
「おや」
 香蘭はふと、自分が握っている彼女の手に目を向けた。なにかがキラリと光ったからだ。細い手首に、ガラス玉の飾りがついた鮮やかな色の組み紐が巻かれている。高級品ではないだろうが、かわいらしい。
「素敵な腕輪ですね」
「あぁ、これですか?」
 彼女は指先でガラス玉を撫でる。