宝石の名を拝借し『翡翠妃』などと呼ばれるのが慣例だが、これは比較的新しい流行だ。
 伝説の千年寵姫蘭珠が『蒼玉妃』とあだ名されたことにあやかって、後世の妃嬪たちがこぞって自らに宝石の名をつけたのだ。それがいつしか慣例になった。

(光栄ではありますが、縁起かつぎで寵を勝ち取るというのは難しいことでしょうね)
 ちなみに妃の下に宮をもらえない(ひん)、女官、下働きと続くが、この辺りはもう皇帝にとっては〝その他大勢の女たち〟という認識でしかない。

「そうですね。三貴人にふさわしそうな方は何人かいらっしゃると思います」
 香蘭は静かに口を開いた。皇后と三貴人は空位だが、宝石の名を持つ妃は何人も後宮入りしている。皇帝自身にお気に入りはいないので、有力貴族たちの推薦で集められた女性たちだ。先ほど名のあがった翡翠妃は名門(よう)家の娘。血筋だけでなく、容姿・教養も優れている。彼女などは間違いなく三貴人には選ばれることだろう。

「けれど、皇后となると……」
(困りました。千華宮広しといえども、この私以外には見当たりません。でも私は皇后になってさしあげる予定はありませんし)
「難航しそうな気がします」
「いつもながら、謎に上から目線ね。モグラのくせに」
 詩清がつっこみ、みんなが笑う。
「でも、香蘭は本当に優秀な女官よね。力持ちで畑仕事も大工仕事もなんでもできちゃうし」