「私に負けないくらい賢くて腹黒いあなたなら、さっきのを見ていて気づいたでしょう?」
 フンと月麗は鼻で笑う。
「明琳さまはね、妃嬪候補のなかで唯一、本気で陛下に恋しているのよ」
(やっぱりそうなのですね)
 さっきの場面に遭遇する前から、ぼんやりと気がついてはいた。明琳が焔幽を見る目はほかの妃嬪たちのそれとは違う。
「それをね、さも『自分以外に皇后にふさわしい女がいないから仕方なく』みたいな態度なのがむかつくのよ」
 イライラした口調で月麗は続ける。
「あの女が素直に陛下を好きだと認めるなら、皇后の座は譲ってあげなくもないのに」

(愛憎は本当に紙一重ですわね)
 ようするに、月麗は明琳が本心を打ち明けてくれないのを寂しく思っているのだろう。ライバルなのか親友なのか、わからぬふたりだ。
「明琳さまは真面目そうですから。自分でも認められないのかもしれないですよ」
 皇后も貴人も、愛だの恋だので務まる地位ではない。むしろそんな感情は持たないほうがよき皇后になれる。陽家なら、娘にそう教育してきたことだろう。
(明琳さま。存外にかわいい方なのかもしれませんね)
 そんな明琳を誰よりも大好きそうな月麗も憎めない。
(どなたを皇后に推薦するか、迷ってしまいますわ)
 幽鬼騒ぎで忘れていたが、本命の職務もそうのんびりしている余裕はないのだ。秀由には顔を合わせるたびにせっつかれている。