明琳をやり込めることができて満足したのか晴れやかな表情だ。
「今さっきです。その差し出がましい口をききますが、せっかく明琳さまがご親切にしてくださったのに……なにも喧嘩してしまうことはなかったのでは?」
 気を悪くされることは承知で、香蘭は言った。先ほどの明琳の傷ついた顔が脳裏を離れず気の毒に感じてしまったのだ。
 そもそもこのふたりの喧嘩というのは、強く賢い大きな犬の尾の周りで小さな犬がキャンキャン吠えている……というのが常のことで、どれだけ月麗がかみついても明琳は余裕たっぷりにあしらうだけ。だからこそハラハラせずに生温かく見守っていられたのだ。
(明琳さまがあんなふうに反応するのは、めったにないことですね)

 月麗も言いすぎた自覚が多少はあるのだろう。少しばかり気まずそうにモゴモゴと答える。
「私に平気で塩を送る。ライバルとも思っていないと言いたげで憎たらしいのよ!」 
「逆だと思いますよ。最大のライバルの月麗さまが幽鬼に襲われ不戦勝になるのが嫌だったんですよ、きっと」
 彼女は唇をとがらせる。
「蘭楊は嘘が上手だもの」
「はい。なので嘘をつくならもっと上手につきますよ」
 にっこりと笑う香蘭に月麗は細く息を吐く。
「明琳さまもね。どうせなら完璧な嘘をついてほしいものだわ」
「なんのことでしょう?」
 とぼける香蘭に、月麗は皮肉たっぷりに片眉をあげる。