彼女の視線を追いかけると、たしかに宮の出入口の前で明琳と月麗がにらみ合っていた。
(にぎやかではなく、険悪だったのですね)
 ザワザワした気配は楽しいものではなかったようだ。

「明琳さまは喧嘩を売りに?」
「いいえ。琥珀宮の人手不足を知って宦官を貸してくれると、腕に覚えのある方を連れてきてくださったのですよ」
「お優しいじゃないですか」
 現実的に役立つ支援をしてくれるのも香蘭的にはポイントが高い。
「はい、明琳さまを悪く言う方はいらっしゃいませんよ。月麗さま以外」
 そこまた、月麗としては腹立たしいポイントなのだろう。

 女官は同情めいたため息を落とす。
「主をかばうわけではないですが、月麗さまのお気持ちもわかりますけどね」
 明琳と月麗は同じ年。名家の娘同士でなにかと比較されることが多かったようなのだ。
「なにを競っても、ほんの少しばかり、けれど必ず明琳さまが上を行くそうです」
 月麗は劣等感をこじらせているのだろう。今もキャンキャンと明琳にたてついている。
「だからね、どうしてあなたはそう『自分こそが妃嬪たちのリーダーだ』って顔をするわけ?」
 明琳は表情ひとつ変えずに淡々と返す。
「現状、皇后の地位に一番近いのがわたくしだからですわ。わたしくしには千華宮全体を統率する義務があります」
 悪役感たっぷりの甲高い笑い声をあげ、月麗はここぞとばかりに反撃する。