「私も。妖術師にばかり気を取られ、幽鬼のほうは深く考えていなかったのですが」
 幽鬼は妖術師の扱う凶器、そのような認識でしかいなかった。だが――。
「そもそも、四件の幽鬼は同じ人物なのか。あ、幽鬼だからもう〝人〟じゃないでしょうか」
「そこは気にするところじゃないだろ」

 焔幽もそして香蘭も、難しい顔で黙り込む。今回の事件はまだ霧のなかにあるような感じで、全体像がつかみきれない。なにが重要で、なにがそうではないのか……。
「考えてみれば、幽鬼が同一人物とわかったからといって犯人につながる確証はないですね」
 決定的な証拠を発見したつもりになって勢い込んで焔幽のところに来てみたが、こうして言葉にしてみると「だからなんなのだ?」というような気分になる。
「いや、調べる価値はあるだろう。今はバラバラになっているピースを少しでも多く集めることだ」
 今日はもう遅いので事件関係者のところには明日、話を聞きに行くことにした。

「琥珀妃のところはどうだ?」
 あいさつをして帰ろうとする香蘭に彼が聞いた。
「なかなか快適ですよ。夏飛さんとは相性がよくないみたいですが、私は月麗さまとは馬が合うようです」
 焔幽は柔らかく笑む。
「よく似ているからな。自分大好きという一点が」
「私と月麗さまへの最上級の褒め言葉として、受け取っておきますね」
 クスリと笑って香蘭は続ける。