「それは考えませんでしたね。私が見たのは……女の幽鬼でしたから」

 香蘭はその足で朱雀宮へ走った。タイミングよく目的の人物が宮から出てくるところだった。
「陛下、ちょうどいいところに!」
 言いながら焔幽に駆け寄る。
「ちょうどいい、だと? まったく。お前は俺を誰だと考えているんだ」
「夏飛さんが陛下は無礼な人間が好きだとおっしゃっていたので、お好みに合わせているまでですよ」
「別に無礼なのがよいとは思っておらぬが」

 眉根を寄せる焔幽にはお構いなしで、香蘭は大事な話があると詰め寄った。
 朱雀宮の前庭にある東屋にふたり、向かい合って腰かける。
 香蘭の話を聞いた彼は思案するようにこぶしを顎の先に当てた。
「なるほど。幽鬼の性別か」
「はい。最初の被害者、黄詠さんを襲ったと思われる幽鬼をみた女官が『幽鬼は女だった』と言うのです」
 顔立ちや衣服などははっきりわからないが、身体のラインや立ち姿が女性のそれだったと寿安は話してくれた。

「残りの三件はどうだったんでしょうか。幽鬼が男か女か、証言がありましたか?」
「確認しよう。正直、幽鬼の性別などもはや判定できぬものかと思っていたから考えもしなかった」
 証言で出てくる特徴は異形の化物としか思えないものばかりだったので、男女の別については俎上(そじょう)にのらなかったのだ。