「う~ん。新陛下はあまり女人に興味がないとも聞くし、まずは三貴人だけじゃないの」
 千華宮の妃嬪たちには明確な序列がある。トップはもちろん国母である皇太后、次に皇帝の正妃である皇后。その下に三貴人の位がある。名称のとおり三名しかその椅子に座ることはできず、上から順に(そう)貴人、()貴人、(こう)貴人と呼ばれ、皇后と同程度の豪華な宮を賜ることができる。

「誰が選ばれるかしら?」
 焔幽は皇子時代に決まった妃を持っていなかった。かなり珍しいことではあるが、彼も雪寧と同様に実母の身分が低く、まさか皇帝になるとは……焔幽本人以外は誰も予想もしていなかったのでうるさく言われなかったのであろう。
(女嫌いで恋人は宦官のみ、なんてうわさも聞きますね)
 そんな事情もあって彼の妃嬪選びは即位後に一から始まることになった。皇后も三貴人もまだ空位だ。

「確実なのは翡翠(ひすい)妃さまだけでしょうね。あとは未知数だわ」
「うん、うん」
 ドロドロした女の争いは、巻き込まれさえしなければ楽しいものだ。女官たちは思い思いの予想を語り、しまいには三時のおやつを賭けると言い出す者まで現れ、場はおおいに盛りあがる。
「香蘭は? 誰に賭ける?」
 話を振られ、香蘭は顎にこぶしを添え考えた。
 三貴人の下の位は()。人数制限はなく、名家の生まれや陛下のお気に入りがその座につく。